BABALON

HierosPhoenix2007-02-12

Do what thou wilt shall be the whole of the Law.

Babalon(ババロン)--緋色の女。『法の書』から派生し、クロウリーが発展させた魔術体系 Thelema(セレマ)における重要な概念です。ババロンはヨハネの黙示録に登場する売春と醜悪の母Babylon(バビロン)を想起させます。バビロンはまたメソポタミヤの都市の名前としても知られています。

面白いことに『法の書』にはババロンという単語は全く登場しません。「緋色の女」という名称で第1章15節と第3章43節に登場するのみです。

"汝、今や知るべし。選ばれし司祭にして無限の宇宙の使徒こそ、王子=司祭たる獣であるということを。そして緋色の女と呼ばれし、かの情婦の内に全ての力は与えられたり。彼らはわが子供達を一同に集め、彼らの群れに入れるであろう。彼らは人々の心の内に星々の栄光を運び込むであろう"  
Sr. Raven訳 『法の書』第1章15節

1909年アルジェリアの砂漠にて執り行われた一連の霊視魔術。『幻視と声』(The Vision and the Voice)と名付けられた魔法の記録を読めば、クロウリーのババロン像がそれらの幻視によって確立されたことが分かります。

1909年11月10日。アレイスター・クロウリーは「銀の星」団の弟子で詩人のヴィクター・ノイバーグと共にロンドンを離れ、遠くアフリカのアルジェリアへと旅立ちます。特に目的のない気ままな旅行。彼らは徒歩でアルジェリア国内を南下する行程をたどることにしました。彼のリュックサックの中にはエリザベス女王のお抱え占星術師だったジョン・ディーが伝えた「エノキアン魔術」の文書が入っています。16世紀に活躍したジョン・ディーは著名な神秘学者であり、当代随一の知識人として知られていました。彼の「エノキアン魔術」は精霊や天使との交信によりもたらされた高等魔術体系であり、19世紀に結成された「黄金の夜明け」団によって復活します。

ノキアン・コールと呼ばれるエノク語の呪文とともに、クロウリーはトパーズが埋め込まれた十字架を凝視します。すると彼の精神は、肉体を離れ「アエティール」と呼ばれる霊界へと飛翔するのです。彼はその情景と高位の霊的存在の言葉を弟子に伝え、記録させました。この記録集が『幻視と声』で、「アエティール」は全部で30の階層に分かれており、砂漠の旅とともに彼は一つ一つの「アエティール」を探索し、言語を絶するヴィジョンを弟子に伝えたのです。

第12番目のアエティールでは、戦車を駆る賢者が、クロウリーにババロンの性質を伝えました。ヨハネの黙示録に登場する売春と醜悪の母Babylon(バビロン)は、キリスト教徒により堕落させられてはいるものの、その本質は全てを受け入れ、全ての者の愛人となり、交わる高貴なる女性です。全てを許容し、排除しないその存在は栄光にして聖なる母、聖なる杯。従って売春婦でありながら同時に永久の処女でもある美しき女なのです。第9番目のアエティールでは神殿大の金髪で裸体の美少女を幻視します。王の為にババロンが生んだ永久の処女です。クロウリーはそのあまりの美しさに嘆息します。

ババロンという言葉が持つ、語源学的な意味はあるのでしょうか? 一つはクロウリーが用いたエノキアン魔術の単語である「BABALOND」。その意味は売春婦です。もう一つの解釈は私のお気に入りです。
Bab = 門(アラビア語)、 Al = 神(『法の書』の鍵となる言葉)、 ON = 太陽。 即ち、「太陽の神の門」です。

"何故ならば、彼は如何なる時も一つの太陽であり、そして彼女は一つの月であるからだ。しかし。彼には翼有る秘密の炎があり、そして彼女には前かがみの星明りがある"
  Sr. Raven訳 『法の書』第1章16節

ここにセレマ神学における 男 = 太陽/男根/シヴァ/獣 と女 = 月/女陰/シャクティ/ババロンという二極が定義されます。この構成要素は、クロウリーが発展させた魔術の基盤となるものです。

クロウリーが霊験を得るとき、理解の壁を越えるとき、彼が緋色の女と名付けたパートナーが常に傍にいたことは注目に値します。現在のセレマは女性の神秘性、行動力、知性と美を原動力として発展し続けているのです。

Love is the law, love under will.