天空の女神

HierosPhoenix2007-02-11

Do what thou wilt shall be the whole of the Law.

"われはおまえの上にあり、またおまえの中にある。わが恍惚はおまえの恍惚の内に。わが喜びはおまえの喜びを見る事に"
  Sr. Raven訳 『法の書』 第1章13節

人はなぜ神秘的なものに魅かれ、玄妙なるものの虜となるのでしょうか? 私が胡乱の中で体験した絶頂体験、今回は天空の女神に愛でられた貴重な経験について書いてみたいと思います。それはもう今から18年も前の話です。

当時の私は魔術のことなどほとんど何も知らず、平凡な日々を送っていました。ある日、友人が「どうしても手に入れたい本があるから」と半ば強引に私を書店に連れて行きました。件の本は、国書刊行会から翻訳されたアレイスター・クロウリーの『法の書』でした。その時の印象は、悪趣味で低俗な本を欲しがる奇妙な友人、というだけでした。まさか、その本が自分の人生に大きな影響を与えることになるなんて全く予想だにしていなかったわけです。

丁度同じ時期に別の友人とマクドナルドで談笑している時でした。その友人はバンドのボーカルをしていたのですが、独特のテーマを歌詞にしているとのこと。猛烈に好奇心を掻き立てられ、しつこくそのテーマについて問い質してみました。彼の口から飛び出した幾つかの言葉は、当時の私にとっては全く馴染みのないものでした。曰く、『ホルスのアイオン』、『東方聖堂騎士団』、『アレイスター・クロウリー』、そして『法の書』!  なぜだか心がさざめいて頭が朦朧としたのを憶えています。

さて『法の書』を購入した最初の友人は、意気込んで封印を解き(!)読み進んだものの全く意味が分からないということで、私にその本を読んでくれ、とばかりに押し付けてきました。気が進まないまま、その本を借りてベッドに寝転んで読みはじめました。正に! 全く意味不明の言葉の羅列、うんざりしながら本を閉じてベッドの横に放り出しました。それからしばらく経ったある日のことです。私は『法の書』を読みながら、ついうとうととしてしまいました。時間帯は夜が深まる静寂の一歩手前です。

私は夢の中で突然目覚めたのです。すると自分が夜空の中に浮遊していることに気付きました。恐ろしく澄み切った透明な風、遠くに山々と街の明かりが見えました。見上げるとそこには満点の星々が瞬いていました。なんと美しい光景・・・魂が揺さぶられるような比類なき美の饗宴に覆い尽くされていたのです。なにか巨大なものに呑み込まれる恐怖、いや恍惚感が怒涛の如く襲いかかってきました。天からは甘酸っぱい雫がポタポタと降り注いできました。その刹那、遠くに見える山々の上空を流れ星が降下していきました。無限の星々の抱擁と接吻がどれくらいの間続いたのかは分かりません。しかし、恍惚の大海の中で気付いたことが一つありました。自分は確かにこの感覚を知っている・・、懐かしい・・・、とてつもない郷愁の念に全身を浚われ、あまりの絶頂感に目を覚ましたのです。

この体験は激烈なものでした。私が神秘的にものに魅かれ、それを追求しようと確信したのはそれからです。あの恍惚と絶頂をなぜ自分が知っていたのか? なぜ満点の星空だったのか?
答えは『法の書』の中にあるに違いない、と直感しました。なぜならば、この体験は人間が完全なる星であり、無限の空間に独自の座を占め輝き、天空の女神ヌイトの無限の身体の一部であると理解できたからです。

その後、クロウリーの『第四の書』に触れ、数多の魔術書を読み、また幾つかの魔術団体に入会し、ひたすら恍惚を追求する人生が始まりました。O.T.O.に入団し、自分のキャンプを設立するとき、迷うことなく私が選択した名前が「Sky Goddess Nu」です。天空の女神への狂おしき愛こそが全ての出発点であり、転機であったと確信しつつ、深く女神に感謝しています。

 "何故なら、われは愛の為に分裂させられたのだ。結合の機が熟する時の為に"
   Sr. Raven 訳 『法の書』 第1章29節

Love is the law, love under will.