The Sword and The Serpent

HierosPhoenix2008-04-20

Do what thou wilt shall be the whole of the Law.

 魔術の径に踏み込んで以来、実に様々な喜々とする出来事に遭遇してきました。特に自分が選択した系統・流派との邂逅、これまで関わってきた団との必然的な関係、様々な友人や師との出会いは大切な財産であると同時に、不思議な因縁を感じずにはいられません。そして震撼すべき書籍との出会い。クロウリーの『第四の書』がそうでしたし、フランツ・バードンの_Initiation Into Hermetics_にも度肝を抜かれました。
 魔術師たるもの、大抵の人が本の虫であることは間違いありません。私も典型的な魔術書マニアで、今でこそ必要な本を選定して買っていますが、昔は手当たり次第に魔術書を買い漁っていました。

 これまで長年、魔術書の出版動向を観察してきましたので、自分が関心のあるジャンル(Thelema, Golden Dawn, A.O. Spare,西洋秘教伝統etc)の出版物については、それなりの知識を有していると自負しています。とはいえ、無名の魔術師が始めて出す本をネット書店などで購入する場合、ある程度カンに頼ることになります。"黄金の夜明けの実践体系を完全に網羅した本"、"類書なき禁断の魔道書"、"新しい時代の先端魔術"・・・売り文句は様々です。食指を刺激され、ついついまとめて購入・・・してみたはいいものの随分と期待外れの本が多いのも確かです。特に鳴り物入りで発売されたダイアン・フォーチュン・タロットなんかは実物を手にした際、あまりの不出来振りに涙がこぼれそうでした・・・。逆になんの期待もせず、とりあえず買っておいた本が、とんでもなく素晴らしい内容であった時には、もう狂喜乱舞です。

 ごくごく最近の出来事です。ある日、某巨大ネット書店でクロウリー関連の本を検索していた時のことです。それまで、全く聞いたことがなかった一冊の本が検索に引っかかったのです。_The Sword and The Serpent_。この題名を聞くと魔術書マニアならば、即座にメリタ & デニング(魔術結社AURUM SOLISの設立者)の有名なシリーズの一冊を想起するでしょう。ただし、件の本には、実に興味深い副題が付いていたのです。_A Philosophical Investigation of the Qabalah and Initiatory Process of Aleister Crowley's A∴A∴_ !!!???
 この本は、新刊ではなく自費出版の古本でした。著者はFrater Netz(Nun Tzaddi 950)。これまで20年近くクロウリー関連の書籍、セレマ系のマイナー出版物、OTOや類似結社の機関誌などを蒐集してきましたが、この本の存在は全く記憶にありませんでした。副題はとても魅力的でしたが、全く聞き覚えのない本と著者であったため、即座の購入には躊躇しました。それでも少し悩んだ挙句、購入のボタンを押したのです。

 ネット購入した本は、大抵忘れた頃にやって来るものです。なんの期待もしないまま10日程してその本がアメリカの古書店から送られてきました。「あれ? 何の本だったかな?」と呟きながら、包装をバリバリと剥がしていきます。中から出てきた本が_The Sword and The Serpent_です。レターサイズで330ページのボリューム、自費出版らしい綴じ本。出版元は、Pivot Lodge, O.G.A.、出版年は1992年と記載されています。 Pivot Lodge? O.G.A.? 全く聞いたことがありません。 ところが内容は全編A∴A∴の位階関連、OTOへの特定の言及でひしめいています。そう! すごい本だったのです! 同系統の本としてはアメリカを代表するセレマイトJames A. EshelmanのThe Mystical & Magical System of the A∴A∴があります(書評: http://www.geocities.co.jp/NatureLand/3051/review11.htm)。この本は第三版が完売して以来、古本市場で800ドルぐらいの高値が付いている本で、正に類書のない貴重な研究書です。しかし、ここに類書があったのです!

 著者Frater Netzは、A∴A∴の全位階について、その解釈や必要な解説を散りばめています。どうやら彼はA∴A∴の内的伝統について深い知識を有しているようです。例えば、A∴A∴のニオファイト 1=10の自己参入儀礼 _Liber Pyramidos_とクロウリーの他の実践指南書 _Liber HHH_のセクションMMM、Golden DawnのZ文書の比較研究をしています。この発想自体、彼がA∴A∴の内的伝統に精通していることを証明しています。とにかく度肝を抜かれた私は、著者Frater Netz、及び彼が主催しているとおぼしき魔術団体O.G.A.の調査に乗り出しました。

 といってもやることといえば、まずはネット検索です。ところが、"Frater Netz"、"Pivot Lodge"、"O.G.A."をキーワードに検索を掛けてみたのですが、一向にヒットしないのです。まず、本の表紙に記載されていたPivot Lodgeの私書箱は、現在さるバロック合唱隊の所有物に変わっていることが確認されました。そして謎の団体 O.G.A.がアメリカに本拠を置くセレマ系の小団体であったことが確認されました。「あった」という意味は恐らく現在は閉鎖されているということです(現在、その関係者がオカルト書店を経営しています)。この小グループは、ポスト・セレマやカバラ理論、倫理観や政治学にも重きを置いていた斬新なグループであったようです。更に著者のFrater Netzは1990頃〜1997年の間にアメリカの地方都市に存在していたOTOの活動拠点 Io Pan Campに関わっていた人物であったことも判明したのです。ただし、現段階ではこれ以上に詳しい情報は分かっていません。

 とにかく、これ程までの魔術論客が記したこの大著が今まで全く無名であったという事実に驚かされます。より詳細に本を読み進めていくと幾つかの間違った記述を発見しました。 それでも_The Sword and The Serpent_が、素晴らしい研究書であることには間違いありません。ある意味宝くじに当たったような幸せな気分です。

 これも貴重な出会い。喜々として味わいたいと思います。

Love is the law, love under will.