Thoth

HierosPhoenix2008-12-29

Do what thou wilt shall be the whole of the Law.

魔術と科学の神であるトートは魔術師たちの守護神です。また「トートの書」とは78枚から成るかのタローの一組であり、多くの魔術師はその象徴体系に親しんでいます。クロウリーとフリーダ・ハリスによる渾身の作、トート・タローに描かれている「メイガス」は黄色い裸体の男性であり、中央には魔法の杖が描かれています。

描かれている杖は「黄金の夜明け」団のチーフ・アデプトが使用するThe Ur-uatchiに酷似していますが、それはトートの最も重大な魔術的象徴=武器であるカドゥケウスの内陣(達人)版であり、チーフ・アデプトはこの杖を用いて神殿内に霊と光の諸力( L.V.X. )を召喚します。「メイガス」の周囲には様々な魔法武器が描かれています。彼は至福の笑みとともにそれらの道具を用い、現象を制御します。テトラグラマトンのヨッド=杖は魔術師の確固たる意志の力を象徴すると同時に男根のエネルギーを表現しています。杯はケテルからの影響力を受容する彼の悟性であり、理解の大海であるビナーに対応する魔法武器です。クロウリーの体系では時に聖なる売春婦ババロンが携える聖杯を以ってその象徴に深い意味を与えています。宙を舞う短剣は、彼の知性であり、ヴァウたる息子、ルアクの輝きを表しています。魔術師は、この剣によって事象を分析し、ミステリーを解体するのです。円盤はマルクトと最後のヘーの象徴であり、物質と物質的身体、安定と定着の象徴でもあります。メイガスに迫る猿はクロウリーによるとヒンドゥー教ハヌマン、あるいはトートの猿であり、心理学的にはシャドウ/影、即ちメイガスの無意識に潜むマヤン=幻想を表象しています。トートは神々の伝令者ですが、それは同時に神の真の言葉を歪めて伝える者でもあり、如何なる言葉・文章をもってしても、それら神の真の言葉を伝えることは不可能であるとする信条がここに表現されています。個としての魔術師の魂は複合的な存在であり、自らの内に真理と幻想を秘めています。猿は神の真の言葉を理解することなく、単にそれを模倣、反復するのみです。猿の象徴は全ての魔術師への警鐘であり、神への集中が途切れた時、幻想が魔術師を欺くことを示唆しています。

他方、我々の住むこの世界そのものが幻想であるとする東洋的な論もあります。悪戯好きのマーキュリーは、真実にして偽りであり、賢者にして愚者です。「メイガス」は彼の魔法武器を用いて、宇宙を分析し、理解し、制御することによって「沈黙」とともにその本質を知ることになるのです。トートはクロウリーの儀式「ピラミッドの書」の中で、沈黙に対抗する「言葉」として定義されています。沈黙から発話が生まれ、それは更に沈黙へと吸収されていくという概念をクロウリーは秘密のパスワードの中に隠匿しています。

悪名高き「パリ作業」の中でクロウリーは、ヘルメスとの壮絶な邂逅に成功しています。Magickやセレマ主義、クロウリーの理解が困難な研究家や魔術マニアからは罵詈雑言を浴びせられることの多い同作業ですが、クロウリーがその作業を彼の聖なる書物(A級刊行物)の次に重要視したAB級刊行物として扱ったことから、彼が如何にこの作業を神聖視していたかを伺い知ることができます(AB級刊行物のラベルは「パリ作業」と「霊視と幻聴」の二冊にのみ与えられています)。

 「春秋分点」誌の第一巻七号に収められた「イスラフェルの書」は以前は「アヌビス」と名付けられていたトート召喚儀式です。クロウリーの師匠でもあった「黄金の夜明け」団の小達人アラン・ベネットが作成したトート召喚の式次第をクロウリーが編集し成立させたものです。この儀式は短いながらもよく纏まった召喚の次第と式文から成り、クロウリーの研究者から言及されることの比較的多い儀式です。私は魔術師の守護神たるトートとの合一を求めて、この儀式を定期的に実践しています(以下、記録からの抜粋)。

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メイガス = タヒュティ。彼の言葉は暗き夜に砕ける。ベス = タヒュティ。家、もしくはカドゥケウス。マーキュリー、神の息。知識と力。トート = 伝達者。我が聖守護天使とのコミュニケーションを助ける知性、聖なる杖の保持者、故に我は汝を最初に召喚せん。錬金術の三原理が形成する三角形の頂点にあり、また東に立つ者。タヒュティは暗夜のガイドなり。彼は闇から光りへ、沈黙から言葉へと導く真の魔術の神なり。

某日 イスラフェルの書 トート神召喚

祭壇にトートの札 「Magus」と風の短剣(東の象徴物として)を置く。LBRPにより神殿を浄化。ARARITAとともに水星の六芒星を描き、中央にエロヒム・ツァパオスとともにマーキューのサインを刻印する。何故トートを召喚するのか? かの神はこの平面の頂点を保持する東方の神であり、科学と叡智と言葉を支配する。「Magus」は私の次なる作業の扉なのだ。"社殿の主よ、汝は地の中心に立てり!"
トートを召喚し、彼の言葉を聞く。それはまた私自身の言葉でもある。"二つの柱の間に立てり。生命を歓迎し、また死を享受せん" 結果、PANを想起する。PANとは「二重性 - 生命 - 死」である。トートの神形を纏い、上なるものと下なるもの、いと高きものと低きもの、外なるものと内なるもの、言葉と沈黙の合一を体感する。トート = 言葉。夜の息子に抗う言葉よ! 故に私はヘルメスとして語らん、そしてかの聖なるカドゥケスと共鳴せん! これこそ我が意志なれば! LBRP

某日 イスラフェルの書 トート神召喚

祭壇にトートの札 「Magus」と風の短剣を置く。LBRPにより神殿を浄化。ARARITAとともに水星の六芒星を描き、中央にエロヒム・ツァパオスとともにマーキューのサインを刻印する。燃えさかるタヒュティ! 感覚の天球が燃えるようなオレンジに輝く。東方においてトートと合一する。おお、真実の会堂の筆記者よ、ピラミッドの神殿の東方に座す光(L.V.X.)よ。銀星の女司祭、あるいはギメルの径、おお種を運ぶ白い鳩とともに下れ! 我が頭に、喉に、心臓に、男根へと下れ! おお秘儀参入の会堂の発話者よ! おおヌーの空間にあるマーキュリーよ、水銀よ! 彼は私の中に在り、私は彼の中に在る。沈黙、言葉、そしてまた沈黙。 LBRP

・ベスの小径、Atu I Magus (星幽体投射での接触)

法衣を纏い、最初にLBRPにより神殿を浄化する。アーサナにて祭壇の西に座し、東に光体を視覚化する。第二の身体と共鳴し、その中に意識を移す。Atu I Magusの扉をくぐる。巨大な黄金の杯が眼前に出現する。聖者達の聖なる血、または葡萄酒が注がれているのを見る。それは、より高度な参入の為の聖杯、もしくは最高の魔術の杯となる。光体にてARARITAとともに水星の六芒星を描き、中央にエロヒム・ツァパオスとともにマーキューのサインを刻印する。この小径の案内役を呼ぶと男らしい賢者、もしくは達人とおぼしき人物が現れた。彼は金と黄色が混合された(そこにはまるで全ての色彩が織り込まれているかのようだった)美しい祭服を身に纏い、見たこともない装飾品を頭に着けていた。彼は堅固たる意志と聖なる儀礼の叡智を有している。私は自分が外宇宙にある巨大な競技場にいることに気付く。そこにはメイガスの聖なる芸術の空気が充満し、未知の宇宙光線に充ちていた。

最高の高みへと至る階段ないしは梯子がある。私にはこの競技場の頂点が全く見えない。高みにある達人の神殿へと続くこの梯子を、案内人の後に付き昇った。辿り着いた場所は薄暗い部屋でありながらも聖なる空間であった。東の座にトートが立ち、その傍らにアヌビスが立っている。叡智の神であるトートが語る。"聖なる光の球体へようこそ、おお汝、我が兄弟よ、母の血の子よ。我は暗闇の中語らんとす。おお我が父のロゴスよ、それ故に我はヌイトの輪を切る。さなり、我は無限の輪の中心にある。神的技芸の叡智、おお彼らは我を三重に偉大なるヘルメスと呼ぶではないか!また哲学者の水銀と呼び、時に幻影と呼ぶではないか!"

聖なる光の球体の中央には祭壇があり、メイガスの四種の武器である円盤、剣、杯(それは聖杯である!)、そして火の杖が置かれていた。トートは語る。 "円盤は、見えるもの、見えざるものをいとわず宇宙の形相を説明する。おお、我が母の完全なる円よ、そは我らが久遠のTAOの円周なり。おお、円盤は汝の食物なり、故にそれを食すがよい! 剣は汝の邪心を破砕せん。故にそれは彼の知性なり。ホルスの剣によって汝の胸を横一文字に切るがよい。そうあれかし!聖なる血、または万能薬の杯、おお我が母の女陰。我らがホルスのミサの最も隠されし秘儀よ!  我が火の杖を召喚せん、おお、火よ! 火よ! 火よ! 汝の強き意志は、ラ・ホール・クイトの火と男根の杖により固定されん!"

トートはカドゥケスの蛇杖を保持している。更に彼は語る。
"ケム(エジプト)の我が二柱、我が蛇杖は全てを内包せり。故にここに知識あり。おお、剛毅たる翼の生えた卵、もしくはハディートの球体よ、おお、二匹の蛇は我が秘密の器にて結合せん! アブラハダブラ 我が蛇杖よ!"ここで、カドウケウスは祭壇上の四種の魔法武器を全て吸収してしまう。そして私は光体にてトートのカドゥケウスそのものを吸収してしまった!

トートは私を球体の東の座に誘い、説明を加えた。
"神の家? いかにも汝が神の家たることを知れ! 汝の頭はMezlaより来たり。汝の身体は戦車(Chariot)より来たり"    東の彼方より光輝が現れる。ここに秘密があり、そして聖なる一者へと続く(最高の)扉がある。トートは語る "おお、クハブス(光輝)! クハブス! クハブス! 両性具有のバフォメット!
おお、東方の燃え輝く星、さなり、東方の輝く星"

今や濃い霧が球体(トートの神殿)全体に充ち、声と幻視は消え去った。肉体に戻り、急ぎカバラ十字を切り、作業を終えた。

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あまりトートの言葉に惑わされ過ぎてはいけません。彼は神々の伝令者であるが故に、時に幻影と虚言をももたらすのですから。無たる沈黙から言葉が生まれ、再び沈黙へと回帰する。私はこの事実を次のように理解しています。

それは神の複製たる人間の本性である、と。

Love is the law, live under will.