The Rising on the Planes

HierosPhoenix2009-02-14

“唯一にして至高の儀式とは聖守護天使との知識と会話の達成である。それは完成された人間が垂直線上に上昇することである。この垂直線上からのいかなる逸脱も黒魔術へと陥る傾向を生じさせる。これ以外のいかなる作業も黒魔術である”  アレイスター・クロウリー


 この有名な言葉を読んで戸惑う人も多いと思います。世紀末の獣クロウリーの一般的なイメージは黒魔術師そのものであり、この言葉がまるで空々しく聞こえても不思議ではありません。ゲーティアのデーモンを喚起し、弟子にホロスコープで太陽が位置する宮のクリフォトへのアストラル・プロジェクションを課したクロウリーが、"これ以外のいかなる作業も黒魔術である”と断言することは元来矛盾していることのように思えます。とはいえ、実践魔術師としてのクロウリーは自己にも弟子にも” 聖守護天使との知識と会話”を大作業の一つの目標として課していたことは揺ぎ無い事実です。クロウリーが述べる”垂直線”とは至高性の軸、いと高きものが偏在している天界への梯子を意味しています。起点は人間が住むアッシャー界、または生命の樹の最下点であるマルクトです。そこから垂直に上昇する線は、狭義には生命の樹の中央の柱を指すということになります。広義の意味では、至高性という対象そのものに直結する全ての径が含まれます。

 諸界への上昇(The Rising on the Planes)として知られる技法にクロウリーが出会ったのは「黄金の夜明け」団の内陣においてでした。後に「銀の星」団を旗揚げしたクロウリーは「春秋分点」誌第一巻第二号に、その技法のエッセンスのみを記した「Oの書」を発表し、更にこの第二号では「黄金の夜明け」団で学んだ星幽体投射、諸界への上昇の技法について、より詳細に書き記しています(イスラエル・リガルディーの「生命の樹」も参考になります。その当時のリガルディーはG.Dの視点よりもA∴A∴の視点で本を書いています)。「春秋分点」誌にシリーズとして掲載された「ソロモン王の神殿」の中で「見者(The Seer)」と名付けられた文書がそれで、クロウリーは自身の記録も交え、諸界への上昇の技法を紹介しています。特筆すべきは、彼がその技法をラジャ・ヨガにおけるクンダリーニの上昇と関連付けていることです。火の蛇がスシュムナ上のチャクラを上昇する過程と、見者が生命の樹の中央の柱に位置するセフィラを上昇する過程を比較し、その類似性に言及しているのです(後に彼は「H.H.H.の書」のS.S.S.のセクションで、そのための瞑想の技法を文書化しています)。双方の実践では、共にダーラナーと呼ばれる特異な集中力の持続が必要とされます。諸界の上昇では、特にティファレトを越えた時点からは、むしろ言語は意味をなさなくなり、無あるいは一者の影響下に入ることになります。

 見者は、手始めにアーサナと呼ばれる姿勢,または座位を習得します。見者はバニシングの後、魔法円の中で、このアーサナによって座を確定させます。続いて、ここからは目を閉じ光体を自分の前に視覚化した後、その中に入ることになります。見者は光体に入るとともに上昇を開始しますが、まずは光体の眼で自分の周囲、マルクトのアストラル・テンプルを見ることになります。私の場合、このマルクトの神殿のイメージをクロウリーが発案したある儀式の象徴体系に固定しています。そこを訪れた後に所定の神名の振動やサインを行い、上昇を開始することになります。まずは実例をみてみましょう。

============================================================

 魔法円の準備としてLBRPを行う。アーサナにて祭壇の西側に座し、東に光体を視覚化する。光体へと入り、周囲を見回すといつものマルクトの神殿にいることが確認された。1=10のサインとマルクトの神名を数度振動させ、また祭壇の西側にてグランド・ハイエロファントの印を光体にて形成する。神殿は聖なる空気と振動に充ちている。21番目のトートの札を神殿の上部に視覚化し、それを通過することにより上昇を開始する。
 夜の空間と星々の中にいる。地上の人間の数多の霊もしくは魂が見える。月の神殿への小旅行は、我がイマジネーションが蠢く小宇宙との邂逅である。月の神殿に着くやいなや2=9のサインを行い、イェソドの神名を振動させる。白銀に輝く川が前方にあり、その奔流はまるで銀星の女司祭のネクタルのようである。仮面を着けたアルテミスが私に微笑み、接吻を投げかける。非存在の神殿よ、月の川と偉大なる杯よ。 振動する空気は澄み渡り、しかし官能的である。トートのサメクの札を通過し、上昇を続ける。無数の光の矢が共に上昇する。それはまるで鳩や聖鳥の群れを連想させる。彼方にあるダレス、偉大なる母からのシェキナーの下降を受けながら飛ぶ。この宇宙空間は輝ける原子に埋め尽くされている。二つの柱が混ざり合い、一つの美しい小径を形成する。おお水と火の結合、王と王女の、ライオンと鷲の結合も。それはVITRIOLの芸術、または我が美しき天使である。
 太陽の神殿に到着する。我がアイオンの主の力と炎の社殿。白い法衣を纏った達人が眼前にいる。彼は全を統括するマスターにより磔刑に処されているのだ。L.V.X.のサインを行い、太陽の偉大なる神名を振動させる。それによってルアクの宝石の真の均衡を活性化させるのだ。おお聖なるINRI / IAO, 薔薇十字の社殿、我は我が天使を愛す! IAO!
トートの女司祭(月)の札を通過し、ギメルの小径へ踏み込む。私は白い鷲または輝く球体へと変形する。上昇! 上昇せよ! 我が達成への意志よ! 神秘なる月の狭き小径を上昇せよ!
ダーラナー。青い卵に入り、空虚なる空間へ進む。空虚なる神。汝は我を殺める。
青い卵である私は、灰色の大海原を漂う。もう何も見ることはできない。おお、我が直感、もしくはネシャマーの力、それによってもここでは何も見ることができない! N.O.X.のサイン。
 美の女司祭が現れ、私に接吻と聖なる愛の閃きを送る。我は汝を愛す。我は汝を愛す。青い瞳の女司祭よ。彼女は純潔の杯にして恐怖の幻影なり! 至高の星の微かな衝動と太陽の背後にある太陽を見る。我が天使とともにここで死せり! ABRAHADABRA!
肉体に帰還し、直ちにバニシングを行った。

============================================================

 魔法円の準備としてLBRPを行う。アーサナにて祭壇の西側に座し、東に光体を視覚化する。光体へと入り、神殿の内側にいることを確認する。黒いクロスに覆われた祭壇。二柱の奥に屹立するトート神。1=10のサインとマルクトの神名を数度振動させ、更にパスワードを振動させる。祭壇の西側にてグランド・ハイエロファントの印を光体にて形成した。科学と魔術の神であるタヒュティの言葉により、この神殿は活性化された。
 トートの21番目の札を通過し、タウの小径への上昇を開始する。淡い青の小径、宇宙の空の色である。頂点から降下する美しい光彩の線と紫のヴェイルを見る。
 月の神殿。紫の魔法円と祭壇があり、円の周囲には九本の紫の蝋燭がある。2=9のサインとイェソドの神名を振動させる。巨大なピラミッド群と湖を前方に見た。それらはアストラルのピラミッドであり、我が神殿の青写真である。美しい白い女神が現れる。彼女は一言も発することもなく沈黙しているが、ただひたすらに祈っている。サメクの札を通過し、更に上昇する。無数の天使が出現し、AUMを振動させている。この天使達は決して太陽にまで上昇することは出来ない天使団であるが、彼らの領域を固く守護している。おお、サメクの聖なる小径、王と王女の婚礼、太陽の栄光へと続く狭き径。
 太陽の神殿。L.V.X.のサインを行い、太陽の偉大なる神名とIAOを振動させる。私がいる位置から斜め上前方にラ・ホール・クイトの玉座があり、彼が君臨している。かれは二重の力の杖を保持し、私のアナハタ・チャクラに向かって白と黄金の光線を照射している。ここは永遠の美の神殿であり、調和に充ちている。そして純粋なる魔術の神の領域である。
 私は白い鳥になり、再び上昇を開始する。ギメルは結合する知性の小径である。おお、我が天使とともに我は白き透明なる光とならん! IAO。上昇! 更なる上昇! 月の船の世界よ。突如、黒い法衣を纏った達人が出現する。彼は灰色の雲というヴェイルの中で、一人古代の竜を制御している。彼はホール・パー・クラァートの重要性を私に訴えかけている。あるいはスフィンクスの第四の力である沈黙についても。
 ダーラナー。私は青い卵に入り、灰色の無意味な大海の上を漂う。それは私の隠れた魂、または真夜中の眠りの小部屋である。おお、比類なき主、ケフラよ! おお、私は汝の深みにある光の輝き以外は何も知らない! IO PANを振動させ、N.O.X.のサインを形成する。私は決して最も高みにある王冠を見ることはない。しかし、奇妙なことに私がそこで見たものは自分自身の巨大な顔であった。黒い達人は何の前触れも無く消え去った。
 肉体に帰還し、直ちにバニシングを行った。

============================================================

  魔法円の準備としてLBRPを行う。アーサナにて祭壇の西側に座し、東・キブラーに光体を視覚化する。光体へと入り、その第二の身体を用いて1=10のサインを行う。祭壇の前でマルクトの神名とパスワードを振動させ、グランド・ハイエロファントの印を形成した。神殿は、それらの象徴によって活性され、東方には輝きの火が灯る。聖なるピラミッドの神殿、参入者の会堂。宇宙の札を通過し、上昇を開始する。宇宙の広大な円環を認識し、主アドナイの口から発せられる輝く美と芸術の光球を崇める。上昇! そして上昇!
月の神殿。2=9のサインを行い、イィソドの神名を振動させる。そこには神秘的な水的な空気、または空気のような水に充ちている。それはアドナイの力の息でもある。私は神殿の中央に立ち、その周囲は大理石で出来た銀の杯に囲まれている。三つの白い椅子が前方に見える。それらは空虚だが慈愛に充ちている。私はヴァイオレットの霧に包まれ、私の息はヴァイオレットの光球となる。幻惑の月は神秘的だ。おお、創造の女主人よ、おお数多の天使がそのヴァイオレットの帳の中に潜む。サメクの札を越え上昇を続ける。とても速い飛翔である。ここで赤と青に燃える獅子頭の神と対面する。彼は2=9のサインを形成し、天を支えているが右手には白い杖を持っている。彼は太陽の神でもまた月の女神でもなく両性具有神である。聖なるかな汝!
 太陽の神殿。ここは全ての中心である。私は雲が放つ発輝光の台座の上に佇んでいる。私の前には同じく白い台座の上に立っている賢者がいる。彼は白の法衣とスカーレットのマントを纏っており、その右手には色鮮やかな魔法の杖を携帯している。彼は長く白い顎鬚と威厳に彩られている。彼が語る。”示されしペリカンと鷲の神秘。それらは心臓で燃え盛る。薔薇十字の標章 IAO” 彼の白い台座は美しい赤い薔薇と黄金の十字の台座へと変化した。それと同時に私の胸にも同様の薔薇十字が出現した。
 ギメルの札を通過し、更に上昇する。ここは外宇宙の空間に存在する青き砂漠である。そして私は青い巨大な薔薇の神殿を上方に垣間見た。 上昇! 上昇! 我が空虚なる聖域へと! 黒灰色の雲に突入する。それは相反物を二分する強靭な帳に他ならない。Aumgn!
青い卵に入りハーポクラテスのサインを形成する。我が思考の停止---そしてケフラの沈黙へと。Aumgn。虚空の輪、然なり、人ならざる者の聖域。
 N.O.X.のサインを形成し、Io Panを振動させる。沈黙という名の音の群像、それは宇宙的な螺旋に従い旋回している。おお、Io Pan! Io Pan! ARARITAの開花、そしてARARITAの現前。全ては消え去り、そして死が訪れる。
 純粋なる光の感覚、L.V.X.とN.O.X.の融合。私は「否」を知る。AL = LAの刹那、そしてShTよ来たれ! 一者はアルファより派生し、オメガへと向かう。そは一切を語らず。しかし終局などというものも存在しないのだ。全ては我らが言葉ABRAHADABRAの中に。全ては神秘の黒い薔薇の神殿の中に。肉体に帰還し、直ちにバニシングを行った。

============================================================

 見者は諸界への上昇の最中、常に安定したアーサナに座していなければなりません。それによって光体は、この垂直線上を自由に飛翔することができるようになります。この技法を用いると、同じ垂直線上の道程の反復でありながらも毎回異なった風景や象徴と出会います。これこそがクロウリーが諸界への上昇を頻繁に行え、と命じた理由です。諸界への上昇を始めとする星幽体投射の技法は、何の道具も必要としません。たとえ、身動きのとれない拘束状態、無人島に一人取り残された隔絶状態であろうとも自由に実践することが可能です。とはいえ、クロウリーが指摘しているように作業の場は、浄化された魔法円の中が好ましいといえます。そして可能な限り、自分自身のアーサナに座すことが、もう一つの必要条件となります。星幽体投射は「いながらにして宇宙を探索する」自由な技法です。チェコの魔人フランツ・バードンも驚天動地の魔術書_Initiation Into Hermetics_の中で徹底して、その技法を強調しています。

全ての神秘の門は開かれています。それを封鎖しているのは、唯一人間の理性のみなのです。