The Great Work.

HierosPhoenix2007-01-28

Do what thou wilt shall be the whole of the Law.

中世の知の至宝、錬金術。古の達人たちは本当に鉛を金に変成させる術を編み出したのでしょうか? 19世紀末英国に産声を上げた「黄金の夜明け」団は、錬金術の「大いなる術」(The Great Work, Magnum Opus)という概念を換骨奪胎し、儀式魔術の最高到達点と捉え、個の霊的進化、啓明への径であると考えていました。

『法の書』に登場する言葉、ABRAHADABRAは11の文字から構成されています。これは即ち 5(五芒星=小宇宙、人間)と6(六芒星=大宇宙、神霊)の結合を意味します。セレマの体系では11は魔術の数字であり、「大いなる術」を示唆します。

アメリカのセレマイト、ジェラルド・デル・カンポによれば、「大いなる術」とは神への回帰であり、生命の樹の象徴では中央の柱に対応した下記のステップを踏むと指摘しています(_New Aeon Magick_ ,Llewellyn 1994 by Gerald del Campo p18)。

マルクト   汝自身を知れ
イェソド   真の意志の発見
ティファレト 聖守護天使の知識と会話
ケテル    神との合一 

特に5=6の小達人位階における「聖守護天使の知識と会話」は聖なる婚礼と見做され、「大いなる術」の重要な通過点とされています。クロウリーは、全ての男と全ての女は神の一部などではなく、全き至高の神そのものであると考えていました。人間は天地の中間に位置する王国であり、神とは天上の王国であるものの両者は完全なるユニット(構成要素)であるため、両者の合一は即ち「大いなる術」の完成であると捉えていたのです。

しかしながら、「神」という言葉、概念は便宜上のものであると考えるのが妥当かも知れません。時に"我は神なり"と宣言することは"我は山師なり"と宣言することに等しいと看做されるからです(そのためクロウリーは社会から散々に罵倒されたのです)。

神とは否定できない存在の前提であり、宗教と科学が融合する未知なる"何か"です。殆どの場合、人間はそれを直截的に知覚することは不可能です。それを唯一知っているのが「真の意志」であり、スペアはナルシシズムとは相反する「自己愛 Self-Love」という概念でそれを表現しました。"汝自身を知る"ことにより、人間の「真の意志」の輪郭が朧げながら知覚できたとき、まるで雛鳥が卵の殻を内側から破り、新天地に産声を上げるかの如く、新しい世界=「聖守護天使」と邂逅するのです。しかしながら、「聖守護天使」がその卵を外側から温め続けていたことに、ついに雛鳥は気付きませんでした。

「大いなる術」を先延ばしにし、安寧と戯れる必要はありません。人生に激辛のスパイスを大胆に振り掛け、術に挑む人生は少なくとも退屈とは無縁なのでしょう。

"私たち自身のクハブス、それは私達の唯一の真理である"
      アレイスター・クロウリー
Love is the law, love under will.