Instituta Mysterii

Do what thou wilt shall be the whole of the Law.

西洋の秘教伝統、とりわけ英国の綜合的魔術結社「黄金の夜明け」団に端を発するオカルト復興の潮流が、欧米に於いて再びその勢いを蘇生させたのは60年末から70年代にかけてのことでした。カリフォルニアの反抗文化は、クロウリーを注目すべきグルの一人として捉え、かつて彼の私設秘書でもあったイスラエル・リガルディーが『三角形の中の眼』を上梓するにおいて、欧米でのクロウリー再考の波が高まりました。リガルディーはクロウリーとのかつての苦い思い出を断ち切り、客観的にクロウリーとその魔術を評価することができるようになったことは我々にとっても幸運なことでした。
リガルディーの専門がむしろ、クロウリーのセレマ主義ではなく、かつて彼自身が所属していた「黄金の夜明け」(分派を含む) 潮流の活性化にあったことは間違いありません。リガルディーはクロウリーの有益な研究発表をその糸口として「黄金の夜明け」団の教義と実践を再活性化させ、それを世に問うことになったのです。彼は現代の西洋秘教伝統復興の第一人者であったことは間違いありません。

西洋の秘教伝統の潮流が、ここ極東の地、日本に辿りつくのにそう時間はかかりませんでした。その潮流が日本に漂着して以来、既に40年の歳月を数えるに至ります。さて、ここ日本において、「黄金の夜明け」団の潮流を真っ向から受け止め、それを実際の団としての体裁を整え、多くの団員の教育にあたった傑出した魔術師がいます。いうまでもなくI∴O∴S∴の主催者、秋端勉氏です。かつては私自身もその団のメンバーであり、約5年間にわたり高等魔術の理論と実践の基礎をそこで学びました。同団での集合儀式が活発に開催されていた1990年代の中頃の記憶は私自身の脳裏にも深く刻み込まれています。ロッジのメンバーは、団の季節の祝祭の儀礼を中心としたグループ・マインドの錬成に従事し、実際のテンプルでの集合活動に没頭していました。それはかつて日本では試みられたことすらない魔術の実験道場でした。ただ1990年代の末になるとこの動きは急速に終息し、現在に至ります。

1990年中頃に話を戻すと、この時期はI∴O∴S∴を中心とした様々な団体間の交流も活発で、私見ながら、この時期に限っては日本にも「日本魔術シーン」と呼び得る緩やかな連合体と活発な情報の交換が存在していました。残念ながら、現在はそのようなシーンは存在せず、当時交流していた団体で今も活発に活動している団体は、I∴O∴S∴を除くと、私が所属するO.T.O.ぐらいのものになってしまいました。魔術の交流の場は、主にインターネットの掲示板やSNSに移行し、不特定多数との交流が可能になったことに引き替え、以前のような密な交流は影をひそめることになったように思えます。私自身も一部の友人を除くと90年代中頃に活動を共にした同志との交流は途絶えてしまいました。

今春、急な転居を余儀なくされ、東京の地に移動するにあたり密かに考えていたことは、再びこのようなシーンを少しでも活性化させたいという思いでした。思えば、若い頃は比較的潤沢に自分の自由時間を確保することができました。ところが加齢とともに社会的立場が重くなってくると、なかなかそのようなことに割く時間が限定されてしまいます。とはいえ、敢えてそのような愚行にトライしようと試みて、その第一弾として企画したのが、今回ご紹介する10月のイベント(今の所、18日(土)が濃厚)、西洋秘教伝統シンポジウム「Instituta Mysterii」です。

これは、東京移転の少し前から構想していたイベントで、「Instituta Mysterii」の講演者のラインナップも当初の構想そのままです。秋端勉氏については、今更説明の必要はないでしょう。彼の大著『リフォルマティオ』を一読すれば明らかなように、秋端さんは知と体験の伝道者であり、その存在は国内では突出しています。
先頃『天使由来』を世に問うた神木ミサさんは、私の20年来の友人であり、我々の薔薇十字アドベンチャーの良き解説者です。I∴O∴S∴の0=0プロベイショナーの自らの体験をふんだんに取り入れた魔術修業小説ともいうべき新しいジャンルの開拓者であり、現在進行形のアクティヴな魔術修行者です。
Soror Kはポール・フォスター・ケースを経由して齎された現代的西洋エソテリシズムの源流「黄金の夜明け」団系列の魔術修業に専心する優秀な魔術師で、同じく私の古い友人です。彼女の所属する魔術結社Fraternity of the Hidden Light (F.L.O.) は、現在米国を本拠に世界中にロッジを有する世界的魔術結社です。F.L.O.はその源を世界的なカバラとタローの学校 Builders of the Adytum (B.O.T.A.) に有しており、そのカリキュラム、講義文書は卓越した西洋秘教伝統の百科全書です。

さて、上記3人にこのイベントの話を持ちかけるのは一つの賭けでもありました。特に旧師秋端さんについては、この話を相談する際には少なからぬ緊張を余儀なくされました (断られたら企画が頓挫しますから)。まずは気心の知れた神木さんから最初に賛同をいただきました。続いて、Soror Kさん。こちらも大変好意的に賛同いただけました。そして最後に秋端さん。高田馬場での待ち合わせの瞬間から、少し緊張していましたが、快く賛同の意向を頂くことができました。そう、この企画の主旨は、現在進行形で活動している魔術修行者、魔術結社の内側にいる面々を集めて合同講義をやりたい、というものでした。まずはここまでは成功です。

私は、生まれてから関西 (神戸、大阪) 以外の土地に住んだことがありませんでした。東京でこのようなイベントをやりたい、までは良かったのですが、肝心の企画実行については、あまり自信がありませんでした。幸運なことに日本における魔術振興、シーンの活性化を主眼に置き組織された小グループ 「Vision Abiegnus」に実際の企画・運営をお願いすることに成功しました。従って今後、場所の確保、費用設定、参加申し込み受付などは、全て「Vision Abiegnus」のご厚意により、受け持っていただけることになりました。とはいえ、そのグループの名称 (Abiegnus:薔薇十字団の聖なる秘儀参入の山) からも解る通り、彼らの活動の基盤は薔薇十字的な <ボランティア> 精神です。きっと低料金で、皆さんが参加し易い価格帯を設定してくれることでしょう。

私が今回、皆さんにお知らせできるのはここまでです。今後、このイベントについては継続的に情報発信されることと思います。楽しみにしておいて下さいね。

Love is the law, love under will.