黒の諸儀礼

HierosPhoenix2007-01-20

Do what thou wilt shall be the whole of the Law.

"見よ! 古き時代の諸儀礼は黒である。邪悪なるものは投げ捨てさせよ。善きものは預言者により清めさせよ!さればこの知識は正しきものとなるだろう。"
日本語版『法の書』第二章5節Sr.Raven

古き時代が抱える苦悩と混乱が頂点に達した時、一つの転換期が到来します。ホール・パー・クラートのミニスターであるアイワスは、沈黙の神の聖職者でありながらも、実に多弁で謎に充ちた数々の言葉をクロウリーに伝えました。ここで代弁者アイワスが伝えたキーワードは「黒」です。古き時代の秘儀参入、召喚・喚起、季節の祝祭、鎮魂の儀式はすべからく「黒魔術である」、とアイワスは伝えたかったのでしょうか? オシリスのアイオンの奇跡の焦点である「自己犠牲」は即ち「邪悪」なのでしょうか? 『法の書』第三章51節では、復讐の神ラー・ホール・クイトに姿を変えたアイワスが十字架にかけられたキリストの両目をついぱむ!と凄みます。しかしこれはキリスト像の破壊・暴力を宣言しているのではなく、キリスト教的な自己犠牲による「救済」という視点(両目)を批判する精神を持てという忠告です。

「黒」を解き明かすヒントはアイオンからアイオンへの転換期における宇宙観の変化にあります。『法の書』第一章26節で天空の女神ヌイトの両手が"黒き大地に置かれた"と表現されている通り、「黒」とはマルクトの四色の内の黒、即ち「地の地」を表すと考えれば謎は氷解します。即ち"古き時代の諸儀礼は黒である"は"オシリスのアイオンの宇宙観は天動説"と換言できるわけです。黒い大地を自己の立脚点・視点とするのではなく、"すべての男とすべての女が星である"限り、その立脚点・視点を宇宙空間に飛翔させなければならないのです。その視点に立ちクロウリーが改良した儀式の好例が「獣の印の儀式」(Liber V vel Reguli)です。魔術師は、地上が宇宙の中心であるという幻想を捨て、その肉体を宇宙空間の太陽の視点へと移行させます。またこの宇宙観の変換は、外側に在った救済者からの慈悲ではなく、「完全なる星」の自発的起爆力によって自らの意志による変革を目指し、行動することが肝要になることを魔術師に自覚させるはずです。

クロウリーは「黄金の夜明け」団で魔術を学び、後にA∴A∴の中にその教義のかなりの部分を採り入れています。オースティン・オスマン・スペア(Frater YIHOVEHAUM)がA∴A∴のプロベイショナーになりながらも、すぐに袂を分かつこととなった要因の一つは「黄金の夜明け」団譲りの儀式魔術的な仮装行列であったのは確かです。スペアにとっての魔術は、ある意味、万人共通の象徴体系を放棄し、個別に聖化された特別なシンボルを昇華させることにあったからです。しかし、少なくとも旧アイオンの諸儀礼が黒魔術であったならば、クロウリーの魔術体系そのものが成立しないのは確かです。彼はアイオンの転換に対して本能的、且つ創造的に古き儀礼を刷新したわけです。"善きものは預言者により清めさせよ!さればこの知識は正しきものとなるだろう。"の意味はそういったことではないかと想像します。

黒い諸儀礼は、それまでの時代の叡智を満載した素晴らしい体系でもあります。New AEon vs Old AEonなんてのはナンセンスですから、両方を学びその差異を明確に把握するのが最良ではないかと思います。

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楽しみにしていた『セレマイトの沈思』(_Musings of a Thelemites_ Frater Da'Neos, Alchemy Press 2005)がamazonから届く。まずはパラパラとページをめくる。スター・サファイア儀式への言及がなかなか面白い。アイオン話満載。良い本です。今日の愛読書は、こいつと_Kaos Hieroglyphica_ Anton Channingに決定。

Love is the law, love under will.