Initiation in the AEon of the Child 1

Do what thou wilt shall be the whole of the Law.

J. Daniel Guntherの記念すべき書籍_Initiation in the Aeon of the Child_ (IBIS Books, 2009)は、海外ではとても話題になった衝撃作でした。一方、日本ではこの本はほとんど知られていないため、ここで少しばかり解説させていただきたいと思います。まずこの本は、_Initiation in the Aeon of the Child_の第一部(Book I)として_The Inward Journey_という副題と共に2009年に出版されました。第二部は_The Angel & the Abyss_という副題と共に出版が予定されています。この本の驚くべき点は著者が、膨大な調査と考察、独自の視点から「クロウリー以後」のセレマを再定義したところにあります。とはいえ、クロウリーの原典を否定するわけではなく、またケネス・グラントのような突飛でアクロバティックな理論構築に基づくものでもありません。それは主に著者自身の体験に裏打ちされた「結果」の展開といえるものです。そのために彼は、旧来のアイオンを支配していたキリスト教の教理をかなり綿密に調査しています。また主にユングやエーリッヒ・ノーマンらの心理学的考察と古代エジプトギリシャ等の研究素材をブレンドしながら、クロウリーが敷衍したセレマの世界観を解体・再構築することに成功しています。そういった困難な作業を行い、真に価値ある内容として提示したのはGuntherが初めてですし、この本の出現は正に「Gunther以前」/「Gunther以後」というセレマの歴史観の一つのターニング・ポイントになったといえます。この本が登場した際の驚きはかなりのものでした。世界中のサイトで絶賛され、また反対に異論を展開するセレマイトも現れ、かなり白熱した状態になったのです。何故でしょう? 一つには、それまでGuntherがOTOの中でも殆ど無名の人物であったことが、その驚きに拍車をかけました。ただ「A∴A∴の中にすごい達人がいる」という噂は、それ以前からあったのは確かです。しかし、Guntherに会ったことがある人は極めて稀でしたし、とにかく彼は表に出てこない人物だったのです(Gunther自身は、OTOのメンバーではありません)。そして、そんな半ば都市伝説と化していた達人の本が公刊された時、その内容を読んで世界中が驚嘆したのも無理はありません。彼はその著作の中で、クロウリーは天才であることには間違いないが、新アイオンの救世主などではなく、ある存在(アイワスではありません)の単なる筆記書にしか過ぎないと断言しているのです。これはGuntherの著作の主張の中で極めて重要な部分となっています。

彼の本の各章はそれぞれヘブル文字が対応しており、第一部(Book I)は、下記の8章から構成されています。

第一章 タウ:  新しい真実の骨子
第二章 シン:  覚醒
第三章 レシュ: 二つの地平線
第四章 クォフ: 黄昏の回廊
第五章 ツァダイ: クリトテオス・ルシフィティアス(「光あれ」、クロウリーの5=6小達人の魔法名でもある)
第六章 アイン: 神のイメージ
第七章 サメク: 我、完成せり
第八章 ペー : Wormwood(苦ヨモギ)

 一般的にGuntherの本は初心者向きではないと云われています。事実、彼の著作を理解する為には、読者はクロウリーが書き記した数多くの書物、特に13種類の「聖なるセレマの書物」や「幻視と霊聴」、「虚言の書」、「トートの書」等を熟読している必要があります。加えて、クロウリーの魔術体系の基礎にもなっている「黄金の夜明け」団の基本的な魔術の理論と実践、そして特にカバラの知識が必須とされます。日本では西洋魔術に対する認知度が低い上に、クロウリーのそれらの重要な著作が部分的にしか翻訳されていないため、恐らく多くの読者にとって、Guntherの本は難解極まりないものに映ってしまうでしょう。反面、それまでクロウリーの魔術体系に対する研究を続けていた数少ない読者にとってはGuntherの著作は、比肩し得るべきものがない最重要書籍になる筈です。このBlogでは少しずつですが、Guntherの来日に備え、彼の著作について解説を加えていきたいと思っています。

ここで、彼が主張するセレマの発展論を少し纏めてみましょう。

・魔術の術式の移行。 L.V.X. から N.O.X.へ
・A∴A∴におけるピラミッド構築、「魂の暗夜」の性質
・”ツァダイは星にあらず”の検証論と新たな救世主論
・「凝固した水銀」、「揮発物の凝固」= 最高の秘儀参入。深淵に咲く花の寓意。
・聖守護天使の幻視 = H∴G∴A∴の動物魂(ネフェシュ)への降臨
・聖守護天使の知識と会話、そしてハイエロファントたるホルスの三形態
・大作業における三つの試練と新アイオンにおけるイニシエーションの特徴
・「物質の門の主」と『法の書』に登場する四つの門
・災いの星 Wormwood(ヨハネの黙示録参照)とルシファー
・セレマの弁証法とホルスの七重構造
・虚無の柱とH∴G∴A∴の三つの顕現点
・シヴァの眼の開眼と破壊の本質

これらの論点は、_Initiation in the Aeon of the Child_に登場する主要なものの抜粋ですが、勿論全てではありません。彼の主張の多くは、本来A∴A∴の内部で口伝でのみ伝えられていたものです。彼はA∴A∴の指導的立場から、それらの論点を明示したのです。世界中のセレマイトが驚嘆したのも無理はありません。Guntherは_Initiation in the Aeon of the Child_の難解な、しかし驚くほど進化したセレマの実像を読者に直接伝える為、世界中で講義を展開してきました。主に米国とカナダで、そして昨年の10月には二日間の連続講義をシドニーで実施しました。そして今年の9月、彼は初の英語圏外の国、ここ日本で我々の為に連続講義を実施してくれることになったのです。日本で行われる講義では深遠な_Initiation in the Aeon of the Child_への適切な解説とともに、更にこの本の中の概念を展開させた新しい考察を我々に語りかけてくれる筈です。世界中のOTOの有力団員達は、こぞってGuntherこそが、世界で最もクロウリーとセレマに関する知識を有している人物だと断言しています。勿論、私もその発言に大賛成です。彼の講義に備え、このBlogで少しずつ、彼の論点をご紹介していきたいと思います。

Love is the law, love under will.