The A.’.A.’. and The O.T.O.


Do what thou wilt shall be the whole of the Law.

アレイスター・クロウリーは、その生涯を通じて二つの異なる魔術結社で活動を続けていました。一つは、彼自身が「黄金の夜明け」団の先輩団員ジョージ・セシル・ジョーンズと共同で組織した「銀の星」団(以下A∴A∴)、そしてもう一つのグループは、彼が招き入れられたドイツ起源の東方聖堂騎士団(以下OTO)です。二つの結社は、最終的にクロウリーを首領の座に置き、彼が聖守護天使アイワスから伝授されたセレマの法を実践する団体として世界で最も有名な魔術結社となりました。生前のクロウリーは、しかしながらこの二つの魔術結社の活動を明確に分離していました。ではその違いとは何でしょうか? A∴A∴は、基本的に個人が個人の霊的潜在力を開花させ、また発展させるために「指導者と弟子」(Guru-Chela System)というスキームを形成し、集団儀式のためのロッジやテンプルという概念を撤廃して運営されていました。現代のA∴A∴の活動は、この基本スキームに則って運用され、他の団員との交流すらも公的には認められていません。このシステムの利点は、団員達がロッジに集まることによって生じる結社のサロン化を防止することと、マン・ツーマンの徹底した指導と試験を堅持することによる個の発達の促進にあります。クロウリーはドグマティックで非科学的な宗教観---キリスト教に代表される---を否定する意味で、その体系を「科学的光明主義」と命名しました。彼は人類の罪を贖うために磔刑に処されたキリストの像を誤った人間観、霊的観点であると糾弾する一方、それまでの西洋的な宗教観では禁忌とされていた”人間そのものが神となる”新時代の魔術を提唱しました。他方、OTOを個と個が共同で作業を行う「社会的・科学的光明主義」の結社、そして世界で初めてセレマの法を受け入れた結社として定義付け、その活動の主体を集団による作業、イニシエーションに置いたのです。二つの結社のイニシエーションのプロセスは微妙に異なっています。A∴A∴のそれが、最初の二つの位階にしか適用されないのに対して、フリーメイソンリーに起源を置くOTOではより多様で多彩な象徴と寓意が導入され、多くの参入儀礼が連続的に配備させることになったのです。興味深いことにOTOのルーツには「黄金の夜明け」団の創設者の一人であるウィリアム・ウェストコットに端を発したものがいくつかあります。例えば、「英国薔薇十字協会」の薔薇十字の象徴体系、そして「スウェーデンボルグ儀礼」、「聖霊騎士団」などの傍流メイソンリー儀礼です。A∴A∴については、その基本的な位階制度と根幹となる魔術的な技法の多くは「黄金の夜明け」団から齎されたものであることはいうまでもありません。

二つの代表的なセレマ的魔術結社は現在でも尚、公的には分離した存在です。OTOは世界に4,000人の団員を有する巨大な結社として成長してきました。ただA∴A∴は、今も昔も厳選された少数の修行者達によって維持されています。ただし、1990年代の中頃から少し状況が変化してきたのも事実です。OTOが復刻・編纂を担当し、出版される多数の書籍の謝辞に一人の魔術師の名前が記されるようになったのです。J. Daniel Gunther という当時は無名だった魔術師の名が。彼はマルセロ・モッタのA∴A∴における高弟として、またOTOと敵対していたもう一つの組織SOTO(東方聖堂騎士団協会)の代表的魔術師として、半ば忘れられた存在だったのです。長い沈黙の末、彼は一冊の本を発表します。『子供のアイオンへの秘儀参入—内なる旅路』(Initiation in the Aeon of the Child)がその本です。彼はクロウリー亡き後のセレマ界を飛躍的に進化・深化させた時代の人となりました。アメリカ、カナダ、オーストラリアを頻繁に講演して周り、そしてセレマに関する新しい時代のオピニオン・リーダーとなったのです。ます彼はA∴A∴の内部で口伝でのみ伝えられていた多くの概念を、その著作によって公開しました。彼の著作はA∴A∴のB級刊行物として出版されましたが、その内容はクロウリー自身が書いた幾つかの代表的B級刊行物『アレフの書』や『トートの書』、『777の書』や『セフィール・セフィロス』と比べても何ら劣るものではありません。彼の本によって、「クロウリー以後」の真に発展的な論点が多数発表されるに至ったのです。彼は”L.V.X.の術式”が既に時代遅れとなり、このアイオンにおける中核的な術式が”N.O.X.の術式”へと移行したことを強調します。またホルスとは両性具有たる綜合の時代神であることを提示し、ホルスの多様性を”ホルスの七重配列”として図式化しました。”ツァデイは星にあらず”という『法の書』の中の言葉を壮大な歴史観と象徴解析とともに紐解き、また聖守護天使が落下する災いの星として人間の魂の最下層に宿ることを指摘しました。この本は最早、セレマ関連の本というよりも、来るべき時代の魔術に関する卓越した奥義書として機能しているのです。Guntherは35年にも及ぶA∴A∴での修業によって、またエジプト学、心理学、哲学や宗教学を適宜クロウリーの体系に反映・分析することによって前人未到の新時代の魔術を再定義したといえます。私見ながら、彼はセレマにおける最も重要な論客であり、間違いなく世界最高峰の魔術師です。かくゆう私も彼の本に強い衝撃を受け、人生そのものが大きく揺さぶられることになったのです。

OTOにも卓越した魔術師が多数存在しています。その中の一人、オーストラリア・グランド・ロッジのグランド・マスターである兄弟Shivaは、最もOTOの奥義に精通した人物の一人です。アーノルド・クルムヘラーの_Logos Mantram Magic_や、P.R. Stephensenの有名なクロウリー評伝_The Legend of Aleister Crowley_の編纂を手掛け、また現在はクロウリーの代表作の一つでもある_Magick Without Tears_の編纂を手掛けています。精緻な調査と論述に定評のある彼は、OTOの秘儀に関する抜きん出た解説者にして実践者でもあります。

私が所属するOTO Japanは、上記の卓越したお二人を9月に東京にお招きすることになりました。彼らは個別に複数の連続講義を実施します。まず一日目となる9月4日は兄弟Shivaの連続講義が開催されます。またOTOの中核的儀式である「グノーシスのミサ」がOTOの東京の拠点であるニヒル・ロッジによって行われます。続く、9月5日と6日は二日間ぶっ続けでJ. Daniel Guntherによる連続講義が行われます。またこれらの講義については三日間ともに通訳が付き、日本語でも公聴が可能となる予定です。

西洋魔術不毛の地ともいえる極東の島国で展開されるこの連続講義は「The Path of the Return and The Path in Eternity, The A∴A∴ and The O.T.O.」と命名され、世界中に広く宣伝されることになります。なぜ今、そしてなぜこの日本に世界最高峰の魔術師2名がやってくるのか? このことを私たちは熟考しなければなりません。これは世界で初めてA∴A∴とOTOの指導的魔術師がタッグを組んで執り行われるイベントです。この事実に、私も興奮を隠せないのですが、もしあなたがクロウリーの魔術と哲学に、またA∴A∴とOTOの深部に触れたいと思うのなら・・・このイベントは決して逃すことのできない唯一の機会であると私は断言します。時代の進化が齎したこの画期的なイベントに関しては、追加情報があり次第、このblogでも紹介していきたいと思います。

Love is the law, love under will.