The Eye in the Triangle

Do what thou wilt shall be the whole of the Law.


アレイスター・クロウリーが「科学的啓明主義」と呼んだA∴A∴の作業は、個々の探究者に霊的成長と啓明の道を提供する連続した訓練課程を提供します。実はこの日本ですら、少しずつではありますが、A∴A∴の訓練課程の実像が注目を浴びつつあります。といっても主にそれはまだ日本のO.T.O.の内部から外へ出ることはありませんが。
1900年代初頭のクロウリーは、「黄金の夜明け」団で学んだ西洋の秘教伝統の教義に加え、彼の指導者の一人でもあったアラン・ベネットを初めとした東洋の秘儀を学んだ導師達からヨガと仏教の手ほどきを受けつつありました。薔薇十字の伝統から東洋の径へと進んだアラン・ベネットは、所謂、上座部仏教を現地で学び、その生涯を東洋の伝統の探求に捧げた人物です。またクロウリーは中国のTAOの強い影響の下、そうした東洋の秘儀と西洋の秘儀の相関性と差異を熟考していました。彼の研究は主に『春秋分点』第一巻第四号において開花しています。また同誌第一巻第二号に掲載された『プロベイショナーへのポストカード』では、ヨガとカバラの協調関係が実に簡潔に定義されています。


“ヨガは心を単一の概念へと結合させる為の技法である。それは四つの方法による。

 ”ナーナ・ヨガ 知識による結合
  ラジャ・ヨガ  意志による結合
  バクティ・ヨガ 愛による結合
  ハタ・ヨガ   勇気による結合 
加えて マントラ・ヨガ 発話を通じての結合
  カルマ・ヨガ  作業を通じての結合


儀式魔術は心を単一の概念へと結合させる為の技法である。それは四つの方法による。

  聖なるカバラ 知識による結合
  神性魔術   意志による結合
崇拝の技   愛による結合
  試練     勇気による結合
  加えて 召喚  発話を通じての結合
  奉仕の技   作業を通じての結合”


東洋のシステムと西洋のシステムの融和は、クロウリーが意識的に導入したA∴A∴の大前提であり、それら二つの体系は、A∴A∴の数々の指導書に盛り込まれています。クロウリーは、そうした指導書を主に彼の『春秋分点』誌において次々と発表し、また神秘主義と魔術の相互関連性と特性を『第4の書』の第一部と第二部としてそれぞれ公刊したのです。クロウリーはまたこうも述べています。 ”魔術とはレイヤーからレイヤーへと積み上げられたピラミッドである。ヨガの技法と共にある「光の体」の作業は、全ての基礎である。” A∴A∴では、旧「黄金の夜明け」団では小達人5=6の技術であったアストラル体の完全な制御を、その最初の正式な位階、ニオファイト1=10において既に要求しているのです。これはラジャ・ヨガの訓練による精神集中の能力が、イコール「光の体」の制御に対して極めて有効であることを示唆しています。


A∴A∴は、その設立以来、連綿と活動を続けてきました。これは以前にも書いたことがあるのですが、クロウリーが意図していたO.T.O.とA∴A∴の相互関係は、クロウリーの正式な後継者であったカール・ゲルマーの死後、暫くは失われてしまうことになります。以前の日記から少し引用してみましょう。http://d.hatena.ne.jp/HierosPhoenix/20110911


“A.’.A.’.とOTOの断絶の歴史は複雑であり、恐らくそれは50年程度の歴史考察を必要とします。クロウリーの死後、両団の後継者と見做されたカール・ヨハンネス・ゲルマーは熱心なセレマイトでしたが、彼は自分の後継者を指名する責務を怠ったといえるかも知れません。ご存じの通り、OTOは第9位階の参入者であったグラディー・マクマートリーによって1970年代末から世界中に拡大していきました。彼は、どちらかというとゲルマーとは疎遠だった人物です。A.’.A.’.はゲルマーの弟子であったマルセロ・モッタによってその命脈を保ちました。そしてグラディーとモッタはクロウリー著作権とOTOの正当性を巡って激しく対立し、合衆国において法廷闘争へと突入します。グラディーのOTOは正当な唯一のOTOとして勝利しましたが、逆に彼が主張したA.’.A.’.は、貧弱な小グループでしかありませんでした。モッタのSOTOは、衰退の一途を辿り、しかしA.’.A.’.については水面下でその機能を十分に果たしていたと思われます。A.’.A.’.とOTOは、双方が相互関連して作用するという重要な機能を長らく失うことになります。1990年代になって、あからさまには語られることはないものの同盟関係が修復されるまでは。”


さて、この同盟関係は現在完全に修復されているのでしょうか? O.T.O.は、主に連続する位階のイニシエーションによって集団を教育します。O.T.O.は世界で最初に「セレマの法」を受け入れた団体として現在世界中に拡大し、各国で活発な活動を展開しています。そしてその中核的儀式として「グノーシスのミサ」の祝祭が存在しています。これはO.T.O.の秘儀の精髄を象徴群に彩られた子供の誕生の秘跡として描いた壮大な儀式です。O.T.O.の有能な魔術師の一人であるジェームス・ワッシャーマンは、その著書『テンプル騎士団と暗殺団(The Templars and the Assassins)』の中で、神秘的な秘密結社の性質を次のように定義しています。 “神秘的な秘密結社は、全ての時代と文化に実在した秘儀参入と霊的自由に自らを捧げる。” 


O.T.O.を大陸のフリー・メーソン系亜流結社からセレマ的魔術結社として換骨奪胎したバフォメット第10位階、アレイスター・クロウリーは、O.T.O.の計画を『OZの書』として簡潔に書き記しています。それはO.T.O.の声明書であり、道徳的、肉体的、心的、性的自由、そして虐殺者からの自衛という五つの観点から、人間の権利を明確に宣言しています。”人間以外に神はなし” は団のモットーであり、”我の内に在りて神にあらざるものなし” とは私達、個々の人間の真の性質であるとO.T.O.は考えます。


一方、A∴A∴は自らをどのように定義しているのでしょうか? 現代のA∴A∴の公開サイトから、その文章を引用してみます。


“A∴A∴は、一つの霊によって統合された一つの真実によって統率される内部の「団」である。「団」はV.V.V.V.V.から、熟練した存命の達人を通して、不断の「鎖」によって継続されている。「団」は「一つ」であるが、その機能は、「沈黙の内にある会話」「沈黙」「会話の内にある沈黙」という3つの様式から成る。「団」は、一なる「三角形の中の眼」として「一つ」である。「作業」の開始は、個人的かつ私的なものである。「団」のすべての志願者は、彼あるいは彼女に先んじて「径」に踏み込んだ者の指導の下に作業に従事し、その者もまた序列に従い、更に経験を積んだ者の支援を受けるという恩恵に与る。

A∴A∴は、入団に際する必要な前提条件として、如何なる他の団体との結び付きや、 「権威」によって規定されたとおぼしきカリキュラムとの提携を受け入れることを指示も推奨もしない。A∴A∴の「外なる学舎」の作業のために最適なものは、「団」によって規定され、「学徒カリキュラム」として準備されている。人類への奉仕を誓い、「参入者達の一団」への参加を真摯に望む全ての人々に向けて、その扉は開かれている。”


A∴A∴は、個に対する霊的啓発と成長の径であり、集団の活動は固有の参入儀礼以外には存在していません。即ち、O.T.O. = 集団としての訓練、A∴A∴ = 個人の訓練、として二つの極を成しています。両団は、コインの表と裏として機能するのですが、そのジャンルにおける最も先駆的な研究成果は、3月末に再来日するオーストラリア・グランド・ロッジのグランド・マスター、兄弟Shivaによって詳細かつ、明確に語られることでしょう。
http://d.hatena.ne.jp/HierosPhoenix/20141212


両団の相互関連性とその象徴的解析は、Duplexityと呼ばれ、現代の一部のセレマイト達の重要な研究課題となっています。A∴A∴とO.T.O.の同盟関係の修復は、実は特にO.T.O.側の観点から行くと完全に修復されている訳ではありません。その最大の要因として、O.T.O.の団員としても活躍している現代のA∴A∴の魔術師達は、必ずしも同一のA∴A∴に所属している訳ではないという事実が挙げられます。所謂 Lineage (血統)という問題です。即ち、”私のA∴A∴には〜〜といった歴史的バックグラウンドがあり、その継承は正統である”という主張の根拠になるものが血統、又は霊統という概念です。近年、これらの複数のA∴A∴の血統が相互排斥した結果、安易にA∴A∴の血統の主張をO.T.O.内に持ち込むと、ひと悶着あるという場面がしばしば見受けられるようになってきました(Facebookでは、こういった事がよく起こります)。また近年、その出版と講義活動において傑出した活動を展開しているダニエル・ガンサーのA∴A∴理論や、その継承の正統性をあからさまに非難しているO.T.O.魔術師の書き込みに出会うこともあります。更にA∴A∴とO.T.O.の主張を混在させることを、基本タブー視しているコミュニティもあります。


ここではO.T.O.内で主張されている主要なA∴A∴の血統を二つ紹介します。<姉妹ジェーン・ウルフの血統>
クロウリーの弟子でもあり、あの悪名高きセファルーの僧院にも滞在経験のあるカリフォルニアのジェーン・ウルフはO.T.O.の第九位階の団員であると同時に、A∴A∴では直接クロウリーから指導されていた魔術師です。ジェーンの弟子であった姉妹メラルは、70年代にO.T.O.を復興したグラディー・ルイス・マトマートリーの元伴侶でもあり、自身もO.T.O.の第九位階の魔術師でした。姉妹メラルは、ジェーンの没後も間断なくA∴A∴の作業に従事し、一方ではグラディー・マクマートリーと共にO.T.O.の再建に全力を注いできました。彼女は1960年代後半から、A∴A∴のプロベイショナー0=0を受け入れ始め、弟子の育成に励む一方、A∴A∴の学徒(プロベイショナーの前のStudentという準備学習段階)の底上げと活計化を目指し、1973年に「セレマ大学(The College of Thelema)」を設立、機関紙『In the Continuum』を発刊します。彼女が70年代に受け入れたプロベイショナーの一人として有名なのが、あのロン・マイロ・ドッカット氏です。更に姉妹メラルの弟子として、A∴A∴、O.T.O.の魔術師としてその敏腕を振るった人物にロスアンジェルスのジェームス・エシェルマンがいます。彼は、1993年に『A∴A∴の神秘的・魔術的システム』を刊行、以後このガイドブックは版を重ね、長らくA∴A∴の最優良資料として多くの魔術師達に読み継がれてきました。グラディー・マクマートリーの死後、O.T.O.の首領に立候補した幾人かの魔術師達の内の一人でもあり、(他にはビル・ハイドリックと現O.H.O. Hymenaeus Betaが立候補。一説によるとグラディー・マクマートリーはロン・ドゥカットを後釜に据えたかった模様)、後にO.T.O.アガペー・グランド・ロッジのグランド・マスター代理に就任した人物です(実質、当時のO.T.O. のNo.2)。1987年には、姉妹メラル、姉妹アンナ・クリア・キングらと共に物理的イニシエーションと実践魔術の教育を行う団体、「セレマの神殿(The Temple of Thelema)」を設立します。エシェルマンは、活発な執筆活動と魔術作業で有名ですが、後に師である姉妹メラルと仲たがいを起こすことになります。このコンフリクトから「セレマ大学」と「セレマの神殿」はエシェルマンの南カリフォルニア派と、もう一人の団員デビッド・シューメーカー率いる北カリフォルニア派に分裂します。
北カリフォルニア派(The International College of Thelema / The Temple of the Silver Star)を率いるシューメーカーは、活発なO.T.O.団員でもあり、O.T.O.内部で姉妹ジェーン・ウルフのA∴A∴の血統を積極的に喧伝し、現在に至っています。一方のエシェルマンは1992年にO.T.O.を離脱、現在もロスアンジェルスに中心拠点を置き、自身が率いるA∴A∴、「セレマ大学」、「セレマの神殿」を指導運営しています。
エシェルマン、シューメーカー双方の師であった女傑姉妹メラルは、カール・ゲルマーとも昵懇の仲であり、彼女は自身の聖守護天使Azarとの接触を果たしたことから、カール・ゲルマーからA∴A∴の小達人5=6のお墨付きも得ていたようです。
両カリフォルニアのジェーン・ウルフ血統 A∴A∴には、それなりの人数の現役O.T.O.団員が加入しているようです。<兄弟グラディー・マクマートリーの血統>
O.T.O.のカリフでもあったグラディー・マクマートリーは、クロウリーから直接団の第九位階を授かり、カウンター・カルチャーの本拠地バークレーから、O.T.O.を急速に蘇生させた人物です。とはいえ、彼自身はA∴A∴については、クロウリーの弟子だった訳ではありません。彼は当時妻であった姉妹メラルのプロベイショナーになることによってA∴A∴に関与することになります。姉妹メラルのインタビュー記事によるとマクマートリーは、A∴A∴のプロベイショナーの作業を全て放棄しており、彼女の言に従うとマクマートリーのA∴A∴の血統の欺瞞性は疑う余地がないようです。
現在、グラディー・マクマートリーのA∴A∴を率いて、活動を続けている指導者は、マクマートリーの弟子にして、元O.T.O.の第八位階団員であるジェリー・コーネリウスです。彼には『アレイスター・クロウリーの魔術的精髄』という主著があり、またかつてはバークレーO.T.O.支部Pangenetorロッジから、(その筋では)有名なセレマの研究ジャーナル『Red Flame』シリーズを発刊していました。
グラディー・マクマートリー血統のA∴A∴は、クロウリーが設定した不文律「A∴A∴はロッジやサークル等の如何なる集団活動拠点を持たない」に反して、Clerk Houseと呼ばれる地方拠点を設定し、またコーネリウスは、自らを三代目カリフ、 Frater Hymenaeus Gamma 267と名乗り、旧態依然としたA∴A∴のシステムからは完全に一線を画しています。他方彼は、旧師グラディー・マクマートリーに関する詳細な伝記『獣の名に於いて』を上梓しており、その書籍は極めて有益な内容になっています。O.T.O.在籍時は、団内きってのアクティブなメンバーの一人で、その名は世界中で知られていました。グラディー・マクマートリーの血統を受け継ぐと主張するこのA∴A∴にも、複数の現役O.T.O.団員が加入していることは想像に難くありません。


勿論、世界を見渡せば他にもA∴A∴の血統を主張する団体は複数あり、またその類似結社も存在しています。面白いところでは、ケネス・グラントのタイフォニアンO.T.O.ダイアン・フォーチュンの内光協会の血統を継ぐと主張している英国の「星団」、マルセロ・モッタの血統を主張する米国のデビット・バーソン率いるA∴A∴等があります。

そのような流れにあって「血統」という概念そのものを否定し、一なる団の存在を主張するA∴A∴があります。このA∴A∴にも、複数の現役O.T.O.団員が加入していることは言うまでもありません。先にも引用したこのA∴A∴が定義する団の本質を再度引用してみましょう。


“A∴A∴は、一つの霊によって統合された一つの真実によって統率される内部の「団」である。「団」は、V.V.V.V.V.から、熟練した存命の達人を通して、不断の「鎖」によって継続されている。「団」は「一つ」であるが、その機能は、「沈黙の内にある会話」「沈黙」「会話の内にある沈黙」という3つの様式から成る。「団」は、一なる「三角形の中の眼」として「一つ」である。”


分かり辛いかも知れませんが、実はこの要素こそが、A∴A∴をA∴A∴たらしめている根底にある理念であり、不動の真実です。O.T.O.で活躍する魔術師達が、同時に自分が所属するA∴A∴の血統を主張した時、正にその時にこそ無益なコンフリクトが発生します。そう、「私のA∴A∴のこの血統、この正当性を見よ!」と主張するその瞬間に憂慮すべきコンフリクトが喚起されるのです。重要な要素は、誰に師事したかではありません。重要なことはA∴A∴の不断の鎖に自らが繋がっているか否かです。


80年代、世界には幾つかのO.T.O.が存在し、活動していました。メッツガーが率いたスイスO.T.O.、マルセロ・ラモス・モッタのO.T.O.協会、ケネス・グラントのタイフォニアンO.T.O.、そして当時はカリフェイトO.T.O.と呼ばれていた現在のThe O.T.O.。団の正当性とクロウリー著作権を争って裁判になったこともありました。O.T.O.は、米国に次いで英国でも完全勝訴し、世界で唯一の正統なO.T.O.となりました。今やカリフェイトO.T.O.という呼称自体が死語となり、グラントの団はタイフォニアン・オーダーと改名を余儀なくされました。モッタの数少ない残党は、未だにO.T.O.協会を掲げていますが、その活動内容は不明です。このような正統性の争いは、O.T.O.のみならず米国と欧州を中心とした現代の「黄金の夜明け」団の後継者達によっても引き起こされました。


さてA∴A∴においても、近い将来このような裁判沙汰が起こり得るでしょうか?


まずそれは決して起こり得ないでしょう。O.T.O.はかつての敵であったモッタのO.T.O.協会から、極めて有能で活動的な中核的魔術師を数人引き入れました。そしてA∴A∴の血統を継ぐと主張する者達も、やがて淘汰され、その言葉は死語になるでしょう。また70年代〜90年代に多数存在していた自称セレマ結社も衰退の一途を辿りました。そのような結社は、実は主催者の脳内にのみ存在し、ほんの一握りの仲間内を集めただけの余興に近いものでした。


A∴A∴の不断の鎖に連なる真の達人は、他者との比較でしか自己を表現できないような矮小な自称導師達に対しては、「沈黙」という対処しか行いません。そしてA∴A∴の首領は、自我の肥大に起因する全ての不安定な自称マスター達の騒々しいわめき声を無視します。
一なる団としてのA∴A∴は、人知を超え、三角形の中で見開かれた眼によってのみ脈動します。これがA∴A∴の本質であり、またその鎖は永久へと連結しています。

Love is the law, love under will.