Garkon!

HierosPhoenix2007-03-04

Do what thou wilt shall be the whole of the Law.

丁度一年程前。一人の著名なセレマ主義者が来日しました。ロン・マイロ・ドゥケット(Lon Milo DuQuette)、魔術師、著述家そして大の日本好き。1975年11月、初代カリフ・グラディー・マクマートリーの手によってOTOに参入した最古参の一人。カルフォルニアのヘル・ラ・ハ・ロッジのマスターにして現在は米国グランド・ロッジのグランド・マスター代理を務めるOTOの顔役の一人です。ちなみに代官山での彼の来日講演は盛況のうちに終了しました。彼の代表作_The Magick of Thelema_に衝撃を受けてOTOへの参入を決めた身としてはかのヒーロー、ロンと直接言葉を交わしたことは一生の思い出です。彼はセレマ魔術、カバラ、トート・タロー等に関する多数の本を書いていますのでセレマ主義者の本棚には必ず彼の本が収まっています。彼の初期の著作_Aleister Crowley's Illustrated GOATIA_は一部が翻訳されており、ゲーティアの悪魔オロバスを喚起した逸話に感銘を受けた人も多いのでないでしょうか。

彼の半生を綴った自叙伝_My Life with Spirits_にも再録されたオロバスの一件。生活に困窮し、四面楚歌となった若きロンが師の反対を押し切り、ゲーティアの喚起魔術を実践、見事に車と待遇の良い仕事を得た話はなかなか痛快です。_My Life with Spirits_は冒頭からカリフォルニアの砂漠でLSDをキメるところから始まります。ロック・スターとしてメジャー・レーベルと契約した話、オレゴンのコミュニティーでの不可思議な生活、OTOへの参入やロッジでのエノク魔術の実践談・・・。興味深いストーリーが満載されているのですが、白眉はなんといってもシャロンという名の女性に憑依した悪魔ガーコンのエクソシズムです。ある日、職場にいたロンにある人物から電話がかかってきます。その当時L.A.のスタジオ・シティーから60マイル程離れた場所に住んでいた達人。そうあのイスラエル・リガルディーです。グラディー・マクマートリーを通じて親交が生まれたリガルディーは、ロンにとって憧れの達人、高等魔術の生証人にしてヒーローのような存在だったといいます。リガルディーはある件で僧正を探しているとのこと。機しくもOTOの聖職部門であるグノーシスカトリック教会の僧正に任命されていたロンのことを遠巻きに指しているようです。リガルディーの依頼は、彼の友人のクライアントに憑依した霊体ガーコンの浄霊、即ち悪魔祓いです。当時のリガルディーはライヒ派のセラピストだったのですが、かれのセラピーを受けているカウフマン博士の患者が件のシャロンです。リガルディーはカウフマン博士の連絡先をロンに告げました。ロンからすると、リガルディーその人がなぜ悪魔祓いをやらないのか不思議だったそうです。

義父による性的虐待が始まったのはシャロンが僅か二歳の頃からでした。度重なる虐待の中、シャロンは自分を守ってくれる霊体を生み出します。幼い幼女の想像力から生まれた霊体、それがガーコンでした。義父による性的虐待が終焉を迎えたのは彼女が14歳の頃でした。彼はショットガンで頭を撃ち抜き自殺したのです。解放されたシャロンにとって最早ガーコンは必要ではなくなりました。しかし、ガーコンは決して消えなかったのです。巨大化したガーコンは、シャロンのベッドに潜り込みます。かつての友人は次第に凶暴になっていきます。既にシャロンにも制御できない自律した霊体に成長してしまったのです。大学生になった彼女は結婚し、その後三人の子供をもうけます。夜の性生活の最中には必ずガーコンが介入し、シャロンは胡乱の中で不幸な結婚生活を送ることになります。やがて彼女の夫は仕事上の失敗を悔やんで自殺してしまいます。ロンが出会った頃のシャロンは38歳。11歳から16歳の三人の子供を持つ母親でした。興味深いことに三人目の子供が産まれ、夫婦の性生活が終わると同時にガーコンは一時的に現れなくなったそうです。とはいえ、幼少の頃からの様々な問題が彼女を苦しめ、彼女は心理療法師のセラピーを受けることになったのです。自律した霊体ガーコンは自らの存在の危機を悟ったかのように再びシャロンへの攻撃を開始し、彼女は自殺願望を抱く日々を送ります。

悪魔祓いという一見突飛なアイデアはその実、シャロン本人の発想です。この危機的状況にある女性を救うためにロンは立ち上がるのです。その際、彼は優秀な喚起魔術師を誘います。彼のロッジのメンバーで、喚起魔術のエキスパート、ナーザン・サンダースです。ナーザンはゲーティア魔術のエキスパートとして有名な魔術結社OTA(Ordo Templi Ashtarte)の首領キャロル・ポーク・ランヨンの愛弟子でもあり、自身も卓越したゲーティア魔術師でした。

悪魔祓い決行の夜。午後10時にロンとナーザンはカウフマン博士の自宅のドアをノックします。すっかり食欲をなくし、ナーバスになっているシャロン。彼女は二人の来訪に怯え、悪魔祓いの延期が予想されました。ナーザンは、ガーコンがシャロンから離れることを恐れている兆しを指摘し、断固として今夜ガーコンの悪魔祓いを行うべきだと主張しました。かくして悪魔祓いは決行されます。ナーザンはシャロンに質問を開始します。ガーコンの容貌、色、特長・・・・。ナーザンは土星の魔方陣を用いてガーコンのシジルを導き出します。悪魔の制御には名前の把握が重要だとのこと。ナーザンは魔法円を描き、悪魔を喚起するための三角形と黒い魔法鏡を用意します。即ち、伝統的なゲーティア喚起魔術のセットアップです。悪魔祓いの前に沐浴(この場合はシャワーだった)し、黒い法衣を纏うナーザン。儀式の前にシャロンもシャワーを浴び、髪を洗い流します。バスルームから出てきたシャロンはまるで脅えた少女のようだったそうです。

魔法円に入れられたシャロンの背後に立つナーザン。目の前には三角形と黒い魔法鏡。ナーザンは施術者であり、シャロンは彼女にしか見えない悪魔を感知する知覚者です。ロンがバニシングを行い、つづいてナーザンが浄化と聖別により魔術の神殿を開きます。 そして
 "我は汝を召喚し、喚びさまさん、 おお 霊ガーコンよ
  至高の尊厳により武装されし力とともに、我は強く命令する・・・・"
強く低く響き渡る声、強化された意志と集中力によってガーコンを制御しようとするナーザン。中世より伝わるソロモンの魔術、呪文、神々の名前の暗誦・・・・。激しく揺れ始めるシャロンの肢体、ナーザンが叫びます。「霊は三角形の中にいるのですか!?」「ええ!」怒声にも似たシャロンの叫び。「彼はいつだってそこにいるのよ!」ついに悪魔ガーコンが三角形の中に現れたのです。硬直するシャロン、一同に戦慄が走ります。

ナーザンはガーコンの顕現を歓迎し、彼が幼いシャロンを助け、力になってくれたことを感謝します。そして、ガーコンの存在が今では彼女にとって脅威であることを諭します。ナーザンが再びシャロンに叫びます。
「三角形の中を見るのです! ガーコンは三角形の中にいるのでしょう! 彼が何と言っているのか私に伝えなさい!」
「わかったわ!」 しばしの沈黙 「彼はあなたのことを笑っているわ!」

ガーコンは話し合いに応じる気はなさそうです。ナーザンは再びガーコンを諭すもののガーコンに改心の兆しはありません。ナーザンは、ガーコンがシャロンの手助けを拒絶し続け、苦悩の種となるならば、その存在を消滅させると凄みます。聖水を取ったナーザンはシャロン、カウフマン博士、ロンそして最後に三角形の中に聖水を振り撒きます。ナーザンは聖なる神の御名と至高の力によってガーコンを追放する作業にとりかかります。意味不明のわめき声を発するシャロン。しかし悪魔祓いにも終焉の時がきました。

ナーザンが優しく語り掛けます。「全ては終わりました。二度とこんな災厄はありません」シャロンに笑顔が戻り、感謝の気持ちに充たされたシャロンはナーザンに抱きつきます。儀式の成功を喜ぶ一同、高揚感と調和。続いて迅速に五星芒と六星芒のバニシングが行われ、神殿は閉じられました。以後、ガーコンがシャロンの前に現れることはなくなったそうです。

なんだかTVの心霊特番のような一幕・・・。一体ガーコンとは何者だったのでしょう?ガーコンは恐らく、シャロンのファンタジーと精神的な緊迫感が生んだ魔物(Created Magical Entity)だったのでしょう。シャロンの想像力が竜のようなイメージ像--鋳型を形成し、その中に彼女の感情がトリガーとなって流出したエーテル複体(ダブル)が注ぎ込まれたのかも知れません。ダイアン・フォーチュンの『心霊的自己防衛』にも怒りの感情から生まれた狼の霊体の逸話が出てきますが、特に感情の激発は本人にも制御出来ない自律した霊体を生み出します。自律した霊体は、負の感情で充填され、やがて類似した低次の星幽的存在を惹きつけ、どんどんと悪質化していくのかも知れません。続いて、その様な霊体が伝統的な儀式魔術--今回はゲーティア魔術--によって喚び出され、三角形の中に拘束されたことは興味深いことだと思います。それまではシャロンにのみ見えていた悪魔が卓越した魔術師達によって客観視され、結果として劇的な治癒が行われたのです。ナーザンが行ったような儀式魔術は、前出のOTAから発行された本やビデオ、DVDに収録されています。興味のある方は、是非取り寄せてみて下さい。

ロンの_My Life with Spirits_には、ガーコンの一件の後日談も収録されています。しかし、リガルディーも厄介な仕事を依頼したものです。ともあれ、人間とは素晴らしくもあり、厄介でもある複雑怪奇な生き物ですね。

Love is the law, love under will.