RED FLOWER

Do what thou wilt shall be the whole of the Law.


2011年3月5日、未だ肌寒い3月の午後。「青煉瓦」の異名を持つ800ページを超えるハードカバー『ABAの書』(「第四の書」)に収められた「大いなる召喚」儀式(The Great Invocation)を実施し、時代神を体内に呼び入れた時からそれは始まりました。「大いなる召喚」はもともと1907年に刊行された『クロウリー著作集』第三巻に収められる予定だった儀式文書です。即ち、クロウリーが書いた多くの魔術儀式の中でも極めて初期のものということになります。1904年の『法の書』の書記、アイワスとの接触後、あまり時を経ることなく書かれたであろうこの儀式はエジプト然とした実に興味深く美しい召喚魔術儀式です。神に誓願し、「光の体」内に呼び入れた時代の神は、この時以下のような言葉を私に伝えてきました。


“ 力強く、また畏怖すべき赤い炎よ。 そはアイオンの主 ヘル・ラ・ハ!
彼、我の中にありて、我、彼の中にあり。アイオンの主 ヘル・ラ・ハ! 汝、生命と死を与え、 しかし、それら全ての彼方へ。 ああ 碧空の旅行者、 しかし、我は隠れたる破壊とその地下世界を経由する。 アーメン”
ヘル・ラ・ハとその双子。 虚無にて結合し、I.S.I.S.の中に柱を打ち立てよ。 我が主は「一」、「無」、そして不可視の空虚な輪に消える。
ヘル・ラ・ハが我が黄金の心臓に立ち、我と汝は「一」なるを知る。 我らの中にありて、新しき法と「真実」あり。 ああ 立ち上がりし贖い主、汝を崇めん。
汝は「絶対」、そして「永久の炎」。クハブスを崇めん、その原初の意志と消滅への羨望、歓喜の黄金の鷹。 我は燃える三角形の中の天界、「神の家」へと飛翔する。司祭は神なり。
発散する「光」の洪水あり。そして我が「大いなる主」と「秘密の者達」。
我が主が送りたる言葉。 RED FLOWER-赤き花 ”


最後の言葉、RED FLOWERは殊更に印象深く、その鮮烈な言葉は脳裏にこびりついていました。それまでにもこの「大いなる召喚」儀式は何度も行っていましたが「赤い花」のような何らかの暗号のような言葉はあまり受け取ったことがありませんでした。

同日夕刻、メーラーを開いた時、不意にその「赤き花」が私の眼中に飛び込んできました。それはO.T.O.オーストラリア・グランド・ロッジのグランド・マスター 兄弟Shivaから送られてきたメッセージに添付されていました。兄弟Shivaは、その年(2011年)の9月に予定されていた連続魔術講義「The Path of the Great Return, The Path in the Eternity, A∴A∴ & O.T.O.」のシンボル・マークとして私にそれを送ってきたのです。兄弟Shivaもまたそのシンボルを自身の魔術作業の中で得たのですが、送られてきたシンボルは、オーストラリアの姉妹によってIllustratorで綺麗に仕上げられていました。真紅の逆さまになった8つのアルファベット”V”は円形に配置され、その結果形成された緑色の内縁部 = 八角形と重なるように黒いマルタ十字が中央に配置されています。真紅の逆Vが形成する外縁部は、正に「赤き花」そのものであり、“我が主が送りたる言葉。 RED FLOWER-赤き花”とはこのシンボルを予告したものであることが瞬時に理解されました。
実際は、8つの逆Vが形成する象徴は、J. ダニエル・ガンサーによって「救世主の星」と名付けられたシンボルです。また八角形とマルタ十字は、騎士団を象徴する重要なシンボルです。「The Path of the Great Return, The Path in the Eternity, A∴A∴ & O.T.O.」のシンボル・マークは、この二つが合体したもので、正に「A∴A∴ & O.T.O.」を表象する最良のシンボルでした。「救世主の星」そのものは、通常赤い色彩で表現されることはありませんが、受け取ったシンボルは真紅に彩色されていました。兄弟Shivaは、そのシンボルを”視た”簡単な経緯と、セレマの聖なる書『蛇を帯びる心臓の書』からの引用を含めた象徴解析を少し興奮気味に書き送ってきてくれたのです。

未曾有の大震災が東北を襲ったのは、その僅か6日後のことです。この予期せぬ大惨事のニュースは瞬く間に世界中を駆け巡りました。また日本全体が言葉を失い、深い悲しみに包まれるしかありませんでした。そして福島第一原発の事故が連鎖して発生、日本全体が出口の見えない苦しみに包まれます。O.T.O. Japan内部のメーリング・リストには安否を確認し合うメール、福島の原発の時々刻々とした状況確認のメールが飛び交いました。海外諸国からの安否確認、激励の言葉が続々と届く中、当然「The Path of the Great Return, The Path in the Eternity, A∴A∴ & O.T.O.」の開催中止も議論せざるを得ませんでした。まず国内、特にイベントが行われる東京地区は放射能による被災を危惧する声が日増しに増大していました。また各国の大使館は、在日外国人に対して一時的な帰国ないしは、避難を勧めていました。この混沌とした社会状況の中、呑気に魔術イベント等行うわけにはいきませんし、第一来日する2名のゲスト講師、J. ダニエル・ガンサーと兄弟Shivaがイベントの中止を示唆するであろうと考えられました。


3月19日。再び「大いなる召喚」。


“ 真実は神から人への愛、逆もまた然り。 我は「青き家」、「黄金の秘密の卵」「輝く太陽の砂漠」に住まう。 「我」、Nuの裸体、そしてクハブスへの礼拝。 彼女の無限の可能性の中に、至高の母の中に、そは愚者たる我の家なれば。 ああ 青き住居、我はそこに住まう。
「赤き花」と「緑の扉」。 我が力強き両翼は黒と銀、緋色と紫に染まる。 我が心臓 秘密の精髄たるハディートが玉座を占める。
夜空の下の砂漠の孤独な星よ、 上昇し、玉座に坐すラー、 偏在する主ヘル・ラ・ハ!
我は星々の住居より「鍵」を授かる。 そはアイオンの主の秘密の数字、 合一を明かす数字 418 Aum。 恍惚の「戦車」、聖なる血の運び手。 ああ 聖者の血、 N.O.X.の言葉、そは「絶無」へと溶け込む。
418-418 双子の数字、 愛する者たちと「神-人」、「自然」のカルマ マルクト「光の門」。”


3月20日。春秋分点の祝祭の日。大阪には地元の団員のみならず、関東からも若干名の団員が参集し、つつがなく儀式が終了しました。セレマイトにとっては新年にあたる祝祭日でしたが、皆一様に深刻な表情をしていたことが思い出されます。
この段階では「The Path of the Great Return, The Path in the Eternity, A∴A∴ & O.T.O.」の開催中止は半ば既定路線といえるものでした。まずこれからどのように復興が進むのか、あるいは原発の問題が終息していくのかが全く見えない状況でした。また関東地方全域が放射能の脅威に晒されている状況ではイベントを行うに当たっての集客も見込めません。というのも海外から来日する参加者達は、明らかに日本への渡航を拒否するであろうと考えられたからです。

ところが。当のゲスト講師2名は、日本へ旅することを中止したり、延長したりする素振りは皆無でした。これには少しならず驚かされたのを覚えています。むしろ、しっかりと企画や翻訳を進め、イベントを予定通り実施するように指示を発してきたのです。彼らは全くもってこの時期に来日することを少しも躊躇しないのだろうか? と頭を捻ったものです。


4月16日 「大いなる召喚」


“ Io ラー・ホール・クイト。中央にある柱の炎、おお汝の杖こそは混沌とババロンの神性にして啓明されし統合の武器なり。我はホールのヴィジョンを見る。神官たるホールによる炎の雷鳴が宇宙を破壊する様を。大作業の言葉 ABRAHADABRA!
我は黒き大地の王国の王。そして歓喜とともに「赤き花」の運命を受け入れん!
ALの名前、おおLAの名前。おお言語を絶する殺戮者の名前、脅威と災厄が西より訪れる。
汝は昨日なり、しかし我は今日にして永久なる明日なれば。おお我が主ヘル・ラ・ハよ!
赤い心臓の三角形、我をして汝の力と火に入らせたまえ。
偉大なるコフ・ニアの恍惚、そして統一へと至れ。Io ホールの恍惚!
「罪の言葉は制限である」。なぜならば私は真の意志たる栄えある勝利を得る。
418の神託によって、418の神学によって、418の言葉によって、ヌーの優雅さによって、ハドの輝きによって、そして我が時代の主たるヘル・ラ・ハによって。
愛こそ法なり、意志の下の愛こそは ”


いずれにしても私は、イベントを実施するか、中止するかを最終決定しなければならない立場でした。もし、「The Path of the Great Return, The Path in the Eternity, A∴A∴ & O.T.O.」を開催するとしたら、O.T.O. Japanとして不測の事態に対しての事前配備を進める必要がありました。イベントの開催中に大きな地震が発生した場合、海外からのゲスト及び参加者達を速やかに安全な場所へと誘導し、各国の大使館へ連絡を取る必要があります。この場合、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど複数の大使館のリストを作成する必要がありました。その為の災害時連絡リストや各国の大使館の位置は事前に把握していなければなりません。リスクは地震だけにとどまらず、未だ安定していえない福島原発の更なる突発事故も考慮しなければなりません。そして最も憂慮すべき事態は、地震と同時発生する福島原発の再異変という最悪のシナリオです。

ある意味、この時期に海外からの多数の来訪者を含めたイベントの開催を決断したことは無責任なことだと非難されても仕方がないように思います。そのような危惧は確かに常に脳裏にありました。とはいえ、イベントの開催を決定し、準備を進める段階になると、内心そのような事態は発生しないという絶対的な確信が私の中にありました。勿論、そのことを口に出すことは出来ません。「The Path of the Great Return, The Path in the Eternity, A∴A∴ & O.T.O.」の開催に際しては、魔術的な確信ではなく、客観的かつ論理的な常識的状況判断以外を用いるべきではないからです。

イベント後にレポートしたように、「The Path of the Great Return, The Path in the Eternity, A∴A∴ & O.T.O.」は大成功を収めました。
http://d.hatena.ne.jp/HierosPhoenix/20110911
世界最高峰の達人ダニエルの講義は驚きの連続、O.T.O.第10位階、兄弟Shivaの講義も卓越した分析力の賜物でした。結果として何の事故もなく、無事イベントを終了させることができました。私が、イベントの開催を予定通りに実施することを決断した最大の要因は、ダニエルと兄弟Shivaという二人の大魔術師に促されたからではありません。それは「RED FLOWER 赤き花」が私のもとに届けられたからに他なりません。

講義の休憩時間にダニエルが私に告げた言葉はずっと私の脳裏に刻まれています。
「日本は世界で最も重要な国だ」
私は、この言葉の意味を今も熟考しています。兄弟Shivaは後に「日本は西洋と東洋を繋ぐ <門> として重要な役割があるのではないか」という示唆を与えてくれました。私はその事実を簡単に受け入れることはできませんが、何年か経ったら、またどこかでダニエルとその話が出来る機会がきっと訪れるだろうと思っています。

Love is the law, love under will.